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プライベートバンカー Norbert Joue氏の語る日本人海外投資の現状 2021/5/15

Norbert Joue

Senior Member of the Marketing Committee,
TriLake Partners Pte Ltd Singapore

今月の東京エクゼクティブ倶楽部のセミナーに登壇戴いた
Norbert Joue氏は、東京・シンガポール・香港で活動している金融専門家だ。

1992年にESCPビジネススクールを卒業後、来日、
12年間 フランスのInvestment Bank、ソシエテ・ジェネラル証券東京にて
デリバティブなどの研究を行っていた。
そのため、完璧な日本を流暢に話す。
2013年12月 – 2015年4月 シンガポールにて
Lombard Odier Group(スイス最大のプライベートバンク)のアジア総括を行い、
香港・シンガポールの金融業界にて、人脈を構築、投資スキルを研鑽した。
現在は、香港・シンガポール・東京を拠点に、
世界の金融ネットワークと連携しながらグローバルな活動している。

ESCPと聞くだけで、
Joue氏がどれだけ有能な人物か分かるだろう。
European Identity, Global Perspective

ESCP Business Schoolは、
1819年パリに設立された世界で最も古い歴史を持つビジネススクールだ。
フィナンシャル・タイムズの教育機関評価(経営部門)で、
世界1位にランキング(2010年)されるなど、
経済学・経営学の学術・技能機関として世界的に非常に高い評価を受けている(Wikipediaより抜粋)。
Joue氏はヨーロッパのTop of the Topのみが所属する超エリート学閥出身者であり、日本語を含め数か国語を使いこなす稀有な存在の金融専門家である。

通常は海外に滞在しているため、日本で彼と会う事は非常に難しい。今回コロナの影響もあり、家族の住む日本に滞在、当倶楽部の勉強会にご登壇戴けることになった。

プライベートバンカーとしての経緯

日本の金融機関で金融工学を研究している時、個人的に知っている日本人の資産家から、財産の運用を相談されたのが始まりだ。
家族でも、友達でもないからこそ、全て見せられるということで運用を任され、月に一度ニューヨークを始めとした世界各地に同行し資産形成を行った。
その時、日本におけるプライベートバンク(個人の資産の管理・運用のための助言、税務や法律に関する相談、資産相続への助言、遺言執行など様々なサービスを提供する専門家)の必要性を強く感じた。
その後、スイスの最大規模のプライベートバンク、ロンバー・オディエのアジア市場の責任者を任され、シンガポールに滞在、シンガポール・香港・東京の金融業界における人脈やノウハウの蓄積を行った。

現行の政治情勢の影響により、香港の富裕層が、香港からシンガポールに資産を移動させるサポートを行っている最中に、コロナ禍になった。
家族の心配もあり日本に帰国、以降私にしては非常に珍しく日本に滞在している。
仕事仲間のほとんど(Business Tool Box)がシンガポールを始めとした海外にいるため、毎日インターネットでやりとりをしながら活動しているのが、世界の金融はものすごい勢いで動いているが、日本は何をすべきか分からず傍観しているというエネルギーの差を実感している。

プライベートバンクに興味を持つ方はどのような人たちなのか。

日本人は資産を銀行に預けるが、その管理は自分で行わなければならない。プライベートバンカーとは、その管理を行う専門集団を意味している。

日本の銀行も証券会社も、自分達の商品だけを提案しているにすぎず、それぞれの顧客にカスタマイズされた商品の提供がない。故に選択が非常に少なく、資産や状況やライフスタイルに合わせたものでないのが特徴だ。
世界では毎日様々な金融商品が開発されている。
的確な情報をキャッチアップしながら資産形成を行うのが世界の金融業界の常識である。
そのため、最近の日本の傾向として、銀行や証券会社に勤める金融マンより、投資家本人の方が世界の金融状況や、金融システムを理解している場合が多く、彼らの多くが日本の金融機関のサービスは自分たちのニーズに合わないと感じている。
日本の財務体質などを考えると、海外に資産を移動させねば資産を保てないという結論に至っている人が非常に多い。
資産を持っていればもっているほど、強い危機感を抱いているため、海外投資を検討している人が多い。

日本人富裕層の海外投資の現状

今述べたような理由で、海外に資産を移動させることに興味を持っている人は富裕層に極めて多い。
それでは実際に彼らが海外に行くとどうなのかというと、余程語学が堪能でない限り、厳しい状態に置かれてしまう。

金融商品の場合、日本語でも理解が難しく、商法や国際情勢・機能などが複雑に絡み合っているため、それを理解する言葉の障壁が大変大きい。
そのため、多くの人たちが現地にいる日本人金融コンサルタントに依頼している。

しかし、現地にいる日本人の金融コンサルタントは、元銀行マン、元証券マンであることが多く、その経歴で信頼されている場合が多いのだが、基本的に日本の金融教育しか受けていないため、投資家が期待するような情報を与えることが出来ていない。

つまり、顧客サイドに立って資産運用を行うのではなく、現地の銀行で口座を開く際のリベート、保険商品の仲介の際のリベートを得るために活動する場合が多いので、当然の事ながら、取扱い商品は彼らがリベートが貰える商品に限定されている。故に、海外に資産を移動させている人で、満足したサービスを受けていると感じる人がほとんどいないのが現状だ。

国内投資に限界を感じた資産家が海外に口座を開いて期待することは、その国の保険・銀行・証券の機能を熟知し、その機能を応用して個人の資産を分散させることを目的に、夫々の希望やニーズにあった商品をカスタマイズして提案してくれることだが、日本で金融教育を受けた人には機能の違いや税法など法律的な知識も情報も知らない人が多く、又、現行しているグローバルな情報に接する機会も少ないため、単なる代理店業務に終わっているのが現状だ。

オーナー企業・中小企業の資産管理

日本の場合、オーナー企業や中小企業・同族会社にとり、最も身近な金融アドバイザーは、税理士や会計士ではないか。
しかし、多くの士業は安定を好む質が強く、株式投資などの経験がない人が多く、経験がないため適切なアドバイスが行えない。
ましてや海外の情報に精通している人は少なく、オーナーが求める資産管理に必要な知識は絶対的に不足している。
特に海外投資は、様々なネットワークを活用しない限り適切な情報は得られず、日々変化する情報を的確に判断し、タイムリーに対応する判断力と対応力が求められる。
そのため、取引銀行や証券会社の言いなりになりながら、資産形成を行っているのが現状だ。

しかし、金融商品の複雑化やIT化に伴い、銀行内の仕事が爆発的に増えているため、多くの銀行が個人資産の対応はやりたがらない。
行内の仕事が忙しすぎて余裕がないため、益々個人に合わせた資産運用のサービスは手薄になっている。

資産防衛は個人責任

経営環境の変化に伴う舵取りを行わなわねばならない今、経営者は事業に集中し、資産防衛は信頼できる銀行の金融専門家と共に行うことが、恐らく日本人にとって理想のカタチだろう。

明治期の日本の銀行はその役割を行っていたが、戦後アメリカ資本主義経済圏に入った日本は、メガバンクが主流となり、個別対応のノウハウの蓄積を行ってこなかった。
欧米の場合、資産家と共に個々の状況に応じた資産防衛・資産分散をする必要性を、多くの戦乱の中で強く感じてきたので、その役割を担うプライベートバンクが発展してきた。

日本人は何でも政府(お上)がやってくれると思いがちだが、個人の資産防衛は自己責任というのが資本主義の常識だ。
つまり、個人の財産は個人の所有物であるため、個々に行わねばならないが、金融リテラシーのない日本人にとって、複雑化する金融構造を面倒くさく感じる傾向が強く、自分の資産の事なのに理解しようとしない人が多い。
そのため、大手銀行なら大丈夫という「神話」に基づいて、銀行まかせにしている人が極めて多いが、お上が保障するのは1000万円までである。(信託を除く)

また、日本は資産の多くを高齢者が持っているため、どうしても店頭や電話営業でのサポートを望み、世界の主流となっているネット経由を嫌がる傾向が強い。
しかし、世界全体はインターネットでのやりとりが常識になっているため、そのシステムに連動しない限り、日本の金融業界は厳しいと感じている。
日本の金融資産の7割を60歳以上が締めている日本の老舗銀行は、これから益々大変になるのではないかと思う。

つまり複雑化する金融商品と共に、ネットシステムの構築に立ち向かわねばならないのが、現在金融業界が抱える課題だ。
そのため、今後も日本の銀行は新しい商品の知識習得がほとんど出来ないのではないか、個人資産を守り切ることが出来るのかという事に不安を感じている。

海外進出を妨げているもう一つの理由

日本経済の低迷を考えると、海外にいかないと伸びないと思っている経営者は非常に多い。
フランス人の私からみると、日本には素晴らしい商品が沢山あるが、海外進出が出来ていない。
その理由の一つが、中小企業に対する海外での金融面でのサポートが出来ていないことも原因ではないかと思う。
欧米では、これこそプライベートバンクの役割でもある。

プライベートバンクとは何か

プライベートバンクを知るには、スイスの歴史を知ることが大切だ。

フランス革命後、ヨーロッパではカソリックとプロテスタントの宗教的対立が激化した。
フランスはカソリックの国なので、プロテスタント教徒が逃げた先の一つがスイスのジュネーブだった。
当時有名な時計屋は全てパリにあったが、時計産業を担う技術者の多くがプロテスタントであったため、この時、時計の産業はパリからスイスに移転した。
中世から、欧州の銀行は戦争により利益を得ていたのだが、あまりもの戦闘の激化により、銀行が全て倒産しまい、この時期に時計の材料である金や宝石の仕入れを行う機関として、スイスで始まった金融ギルドみたいな存在が、プライベートバンクの始まりである。
そのため歴史的に、有名時計店とプライベートバンクの老舗は、ナポレオン戦争という同時期に登場している。

最初は時計の材料を買う事を目的に、自分の資産と仲間の資産だけを対象として始まったため、プライベートと名称している。日本人はBankを「銀行」と訳したため、個人の為の銀行というイメージで捉えられてしまうが、元々Bankとは堤防を意味しているため、個人の資産を守る堤防という意味が、プライベートバンクの本来の意味である。

元々自分たちの資産を守ることから始まったため、時計産業と同じくプライベートバンクも同族会社として始まっている。
自分の家族と仲間の資産の運用するために始まり、戦争拡大に伴い、資産を分散させることで資産を保とうとした。
プライベートバンクの本来の役割は、会計的に銀行のバランスシートに乗らなよう、いかに分散させるか、また、戦争などの動乱期に資産を守るために、如何に安全な所に分散させるかの、分散型投資を目的とした個人資産の防波堤ギルトである。
そのような歴史的経緯があるため、スイスのプライベートバンクは、現在でも仲間のものしか扱わないため、知らないお客様との取引は一切行わない。
口座開設時も、専門家のチームが必ず動き、彼らが信頼調査をしてギャランティをしない限り、口座は開けないという仕組みになっている。

つまりその防波堤の中にいる人を徹底的に守り抜くという意味が今でも強い。故に、誰もが防波堤に入れるのではない、プライベートなバンク(堤防)なのだ。
一方アメリカのメガバンクは、多くの人が入れるプラットフォームである。

メガバンクとプライベートバンク

このように、プライベートバンクは、個人の資産を運用するというヨーロッパ的な考え方なため、華僑の考えに非常に近く、シンガポール・香港では親和性が高い。
一方、組織が運用するというのがアメリカのメガバンク構想である。

一見、組織が運用した方が安全だと思いがちだが、それだと顧客それぞれの状況に合わせて個々に対応することが出来ず、当然の事ながら、商品もリテール商品となってしまう。
日本人の多くは、組織が運用しているから安全だと思うかもしれないが、日本の銀行は1000万円しか保証してくれない。(信託銀行をのぞく)

オーダーメイドスーツか、大手チェーン店のスーツかという違いと捉えて戴くと分かりやすい。

メガバンクは一般を対象としているため万人を対象としているが、プライベートバンクは、最低1億からと最低金額を設定している。シンガポールの金融庁はある資産からと決めているため、誰でも口座が開けるのではなく事前審査を必要としている。故に、プライベートバンクは日本では超富裕層の特別の銀行というイメージがどうしても強くなるようだ。

明治の金融システムこそ日本の理想形

日本の銀行は誰が始めたかご存知だろうか。
現在大河ドラマで取り上げられている、澁澤栄一氏が第一国立銀行を創設したのが日本の銀行の始まりだ。
第一国立銀行というと、日本の国立銀行のようなイメージだが、澁澤氏個人が創設した民間企業であり、プライベートバンクとして始まっている。
銀行という名称自体、澁澤氏が命名していた言葉でもある。

澁澤栄一氏は、パリ万国博覧会に参列するため、将軍徳川慶喜の弟・昭武に随行した際、フランスの銀行家ポール・フリュリ=エラールから、資本主義経済の仕組みを学んでいる。
つまり、彼が参考にしたのはフランスの金融システムであり、日本の銀行はフランスの金融システムを模範として始まっていることになる。

澁澤氏が革命後のフランスの経済界をみて、官と民の関係が対等であることに驚き、日本においてもそうあるべきと強く感じたという話は有名な話だ。
この、官と民の関係が対等という概念こそ、ヨーロッパ式金融の根本原理である。
つまり、資産は銀行(官)に預けるが、どの官にするか選択するのが(民)であるべきであり、その関係は対等であるからこそ、産業が育成されるという考え方だ。(メガバンク主導型ではない)

現在の日本の金融資産のほとんどが、銀行に預けられている。
資産は銀行に預けるが、その運用は別会社が行うというのが、銀行(官)と対等な立場で(民)の立場から個人の資産を運用するというヨーロッパ式の考え方である。
顧客に合わせ金融商品をカスタマイズし、顧客の利益を守るため、顧客同士を繋げながら産業を育成する。その理念に基づいた経済活動を促進したため、澁澤氏は500以上もの産業を興し、日本の近代産業の基礎を創った。

このように、近代日本産業はプライベートバンクの概念で創り出されたものであり、故に多くの中小企業が育成された。

戦後、その機能がすべて消えてしまい、アメリカ型のメガバンクが日本に金融システムを席巻、大きく仕入れて小分けして販売するというリテール商品に金融商材も変わってしまった。
銀行が、銀行の判断で一括して投資先を決めるというのがメガバンクの手法である。

そのため、投資家にとっても日本の銀行はリテール銀行になってしまい、永い間その教育しか受けていない日本の金融マンは海外では全く通用しなくなってしまった。
それが、中小企業の海外進出を困難にしている。
今後益々金融商品は複雑化してくるが、日本の金融システムは世界金融の遠い外に置かれてしまうのではないかと懸念している。

現在の世界スタンダードは、銀行にお金を入れても、運用は銀行に任せない。
運用は他からプロを入れる。保険も同じく保険会社に任せる人などいない。
官(銀行・保険会社)と民(運用のプロ)が完全に対等というのが常識だ。運用は信頼できるプロに任せ、彼らが顧客のニーズに合わせ、情報を解析しながら金融商品を選択する。
資産を管理する、弁護士・会計士なども、それぞれの得意分野に応じて彼らが選択する。
その運用会社(プライベートバンク)への信頼は相互信頼であり、顧客、運用サイド両者に選択権がある。

日本とフランス

日本とフランス両国を知っている私からみて、フランスと日本の金融マーケットに共通していることは、日本人もフランス人も不動産が好きな民族であることだ。
その為、資産形成の比重においても不動産が非常に重要である。両国とも歴史ある国なので、その土地や文化を重視する国民性であることも、不動産という空間資産に興味がある原因かもしれない。

現在金融システムは新たな商品が次から次へと開発され、非常に複雑化されているからこそ、非常に面白い時代である。

私の役割は、今まで20年以上プライベートバンカーとして構築したネットワークを、日本の金融専門家に繋げることだと思っている。
フランスと同じく、日本には歴史や文化があり、日本人投資家の投資意識にそれは色濃く反映されている。
単に資産を増やせばよいというのではなく、日本人が居心地が良いと感じる投資環境を整えない限り、どんなに怜悧な解析で成功をもたらす提案をしても、彼らが満足いく提案など出来ないと思っている。

私のような金融のプロは世界各国に情報網があり、その金融ネットワークを我々はTool Box (道具箱)と呼んでいる。

明治期に我が国から金融システムを導入、短期間で近代産業化を成し遂げた日本にとって、私が提供するフランス製のTool Boxは、これからの時代を切り開く日本の金融コンサルタント達に役立てられるのではないかと思っている。

2021年5月18日
東京エグゼクティブ倶楽部における講演にて
文責 山脇史端

(2021年5月23日 文責:事務局)

 

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