活動報告

ドカ貧を防ぐ知恵 前田昌孝(元日本経済新聞編集委員)

日本の株価の推移

株式相場は小泉政権時代には良かったが、その後、民主党政権の3年間、株価は8,000円前後まで落ちるなど非常に低迷、その後、2012年12月に安倍首相が、アベノミクスを提唱し、少し勢いが出ました。
その後、日銀の黒田総裁が、大胆な金融政策が講じたことで、その後のアップダウンを経て、2021年の9月14日の日経平均は30,670円の水準まで戻ってきております。

今まで最も日経平均が高かったのは、1989年12月29日で39,000円近く、一番安いのは、リーマンショックの後で、7,000円あたりまで下がりました。そこから30,000万円前まで戻りましたが、その後は力なくダラダラと下がっていった、そのようなイメージが日本の株価です。
一昨年はコロナショックがあり、3月に16,000円位まで下がり、一時は世界大恐慌と言われ、もっと下がると思ってた人も結構おりました。
プロの運用者でも、この時危ないと思い株式を売った人もいます。今から考えたら、その時のコロナ感染者は、ほんの少ない人数でした。
しかし、そこから不思議なことに、感染者が増えるにつれて、どんどん株価が上がっていくという状況になりました。
コロナ禍で経済が大変な割には、株価は上がっているため、岸田さんが心配しているように、貧富の格差が拡大しているという印象も持つかもしれません。
日本の株式市場だけをみると、去年の9月14日がピークで、その後下がっており、現在は27,000円台になっています。

何が原因で下がり始めたかというと、9月14日は、野田聖子氏が自民党総裁選に出ると宣言した時になります。
菅氏が辞任すると言ったことにより、河野太郎氏が就任して政権が刷新され、日本経済の構造改革が進むのではないかという期待感から上がっていましたが、野田氏の出馬により票が割れ、河野氏は政権がとれないと市場関係者が判断したことにより、下がり始めました。
それまで去年の日経平均株価は、2月に30,000万円台に乗り、8月に無理してオリンピック開いた結果、感染者が増加したことで、27,000円まで下がり、その後再び上昇、9月14日に30,670円をピークとして下がり始め、現在2022年2月3日時点で、27,000円になっております。

世界の投資家はドルベースで投資をしているため、円安になると日経平均がいくら上がっても日本株で損をします。

この1年間は円安が10%ぐらい進みましたから、もし日経平均と同じように動く株を持っていたとしたら世界の投資家は、日本株を買って6%前後損をしたことになります。
そのため去年は、日本の株式相場の地盤沈下が進み、米ドル換算では世界95市場の中、日本は78番目の戦績にとどまりました。これはギリシャやスペイン、韓国より下位になります。

地盤沈下が進んだということは何を言っているかというと、世界の株式市場を全部買い集めた時の、日本の割合がどの位かという事になります。
1番ピークだった89年末は、銀座の一角の土地を買えば、アメリカの一つの州が買えると言われた時代でした。
その時の東京株式市場の日本株の時価総額の世界の占める割合は、40%ぐらいでした。

それはそれで異常だったことですが、そこからだらだらだらだらと下がり、それでも2020年末で6%ぐらいありましたが、2021年末にはガクンと下がり、1番低い時で5.11%まで下がりました。
ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーなどの大きな証券会社には、以前はジャパンデスクというのが必ずあり、日本株、日本企業専門に分析するアナリストがいました。
80年当時、東京支社長は、次に本社の社長になると言われるレベルの幹部候補者を送り込んできており、東京は国際金融センターに1番近い存在でしたが、今の日本には、「経費のかかる外国人幹部」を置く会社などありません。

アジア統括は、既に香港やシンガポールに移っており、それくらい日本株のウエートが低下しています。
世界の投資家にとって日本株は持っていようが持っていなかろうが、自分の世界分散ポートフォリオにはほとんど影響がない、影響がないということは、関心がないということになります。

「世界投資」という意味は、色々な国の株式を、それぞれの国の株式市場の規模に応じて分散して持つという意味です。
日本株を持たないポートフォリオの方が、日本株を持つポートフォリオより、投資ファンドも成績が上がります。そのため、日本も含む世界全体として投資するよりも、日本株を買わない方が数字は良い結果になっていしまうのです。

1989年と2020年の世界の企業の時価総額ランキングでも、89年末の世界トップがNTT、2番目が興銀 3番目が住友銀行です。89年末は日本企業がほとんど上位を締めており、時々アメリカのIBM、エクソンなどの名がありましたが、現在日本企業は影も形もありません。この30年間で、いかに日本が弱くなったかお分かりでしょう。現在の時価総合ランキングは、ほとんどがアメリカで、後は中国、スイスのネスレなどがあり、日本企業は、トヨタ自動車の時価総額は40兆円になったという報道があったため、それが計上されれば25番目あたり、トヨタの次がソニーグループ、その次はNTTあたりで、その次がリクルートです。
現在、世界のランキングに登場できる日本の大企業はそれくらいです。

そのため、例えば、89年末に買った株を、今まで32年間ぐらい持ち続けでいても、配当を含めてもまだ元本を取り戻していない会社が大体6割ぐらいです。
その時から、10倍以上になったというのは、ニトリ、キーエンス、日本電産など13銘柄だけになります。
これらの企業は、オーナー系の会社が多く、創業経営者の精神を持って経営している会社は強いという印象があります。
考えてみれば、アメリカのGAFAMも、力のある創業経営者が起業した会社です。
アメリカの会社は、次世代に継承しても、株は上がり続けています。なぜかというと、創業経営者の精神をしっかり組織に埋め込んでいるからであり、次の経営者がそれをしっかり受け継いで革新させていくため、トップが変わっても上がり続けているのです。

日本の会社はそういう観点で見ると弱く、㈱Canonの御手洗氏などは、次の経営者にバトンタッチすると株価が下がるため、やめては戻り、やめては戻りで都合3回、社長を務めていらっしゃいます。

2022年4月からの東証市場改革

東証が4月から市場区分を変更するという話があります。なぜこの時期に改革することにしたのかというと、東証1部には時価総額40兆円のトヨタ自動車を筆頭に、100億円にも満たない会社までたくさんあり、収拾がつかなくなってきてことにあります。

東証1部に上場した社長にしてみれば、「頑張って1部に上場して下さい、マザーズを経由すれば、1部にすぐ行けますから」など、いろんなこと言われたため上場した会社も多く、社会的信用もつくことで、人材も集められるという理由で、苦労して1部に上場やったのに、東証の都合でまたスタンダード(2部)に落とすのか、と思っている会社も多くあります。

新しいプライム(1部)の基準に満たない会社は、2200社中650社ぐらいありますが、650社のうち大体294社程度は、プライムの基準である流通株式時価総額100億円に合致するように頑張っている会社です。

そのため、2200社のうち1800社ぐらいは、そのままプライムに残ることになりました。
しかし、私が注目したのは、プライムに上場なんか、もうしなくてもいいと判断した344の会社です。
彼らは、そんな背伸びしてもしょうがないからスタンダードに移る判断をした会社です。
逆に無理してもプライムに残った会社もあります。
例えば、財閥系製造会社で、実際はプライム(1部)の力はなく、スタンダード(2部)の規模まで落ちている状態なのに、無理して、財閥のプライドで残留したというような会社です。

確かに、看板も大事かもしれませんが、プライムにいるためには、コストもかかります。
社外取締役も大勢雇わなければなりませんし、外国人投資家がそんなに来るわけでもないから、スタンダード(2部)で良いのではないか、と社内で決めた後、OBが出てきて、財閥のメンツでなぜ降格するのかと言ってくるのです。

プライムとスタンダードの違い

プライムとスタンダードと何が違うのかというと、もちろん流通株式時価総額の基準も違いますが、プライムに残れば英文情報開示が義務付けられ、気象気候変動のエネルギー情報の開示が義務付けられる、そして、社外取締役の人数が取締役会の1/3以上(スタンダードなら2人いればいい)にしなければなりません。

このうち何が面倒かというと、気候変動に関する情報開示です。これには、専門的な知識も必要であり、専門家を雇用し、色々な人のインタビューも受けなければなりません。

そしておそらく、5年~10年後位になると、プライムにいる会社は社外取締役を過半数にしろというルールに必ずなると言われています。
経済産業省とか金融庁は、海外のいろんな人から、日本が遅れていると言われ続けているので、恐らく実施に移すでしょう。

社外取締役が増えると、彼ら実情を知らない人たちが、会社経営の足を引っ張るケースが多くあります。
社外取締役が役割を誤って理解しており、振り回されることがあると、経済産業省の内部の研究会の資料で企業にヒアリングした結果に記されています。
お役所のヒアリングに対して、企業は普通はあんまり言いたくないのだと思いますが、こういう声が出てくるということは、よっぽどそういう会社が多いのだと思うのです。

例えば、女性の取締役には、女性の企業経営者に少ないため、弁護士、会計士、大学教授などから選ぶケースが多いのです。
彼女たちは企業の経営経験はないため、実情にそぐわぬ事をいう事もありますが、企業経営の実情について丁寧に説明すれば、充分理解してくれます。
一番の問題は、65歳~70歳位の、他の会社で社長を経験していた元経営者が就任する場合です。
執行陣に対して、「俺の言う通りやれ」と迫る場合が多く、もう時代も違うし、自分たちが見ているマーケットも違うし、昔の経験で言われても困るという実感を持つ会社が多くあるのです。

今は自分の判断で市場区分を変えることはできませんが、4月以降は自分の判断で市場区分の変更を申請すればできるようになります。
勿論、体裁が大事だと判断してプライムに残る会社があるかもしれませんが、社外取締役に振り回されるのは嫌だと判断し、スタンダード(2部)に自ら行くところも出てくるのではないかと思います。
そうなると、東証市場改革によりプライムの会社は激変し、世界市場における日本の存在価値は益々低迷するのではないかと懸念しております。

(以上、ご講義の内容を要約しました)

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マーケットエッセンシャル
株式市場に映る世界の話
主筆・前田昌孝(元日本経済新聞編集委員)
日経電子版の人気コラム「マーケット反射鏡」を書いてきた筆者が、提供するマーケットコラム

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