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金融・経済の動向と今後の示唆 桐谷太郎氏講演 2021/3/18

今月の勉強会は、桐谷太郎氏をお迎えして
金融・経済の動向と今後の示唆について講演をいただきました。
(2021年3月16日現在)「文責:事務局」

桐谷太郎氏

元三井住友信託銀行常務執行役員
現在 株式会社ビジョンマネジメント代表取締役
中小企業診断士(1996年登録)

三井住友信託銀行の営業現場で様々な事業に関与、
長年にわたる実践経験から、「営業は科学である、最後は白兵戦」であるという営業哲学を展開。
バブル崩壊後、金融業界の荒波の中、支店長、本部部長、役員支店長、本部役員として活躍。その間、2度に企業合併を経験、経済界にて幅広い人脈を構築する。
2014年常務執行役員を退任、顧問に就任。
中小企業診断士・社会保険労務士・CFPとして独立、現在経営コンサルティング会社を設立、後進の育成に尽力。

数字を読み解く力をつけよ

金融・経済動向を捉えることにおいて最も大切なことは、グラフをみないで、数字だけをみる癖をつけることである。
数字以上の事実はない。
グラフや作図は作成者の意図が含まれやすく、作成側に都合よく作られる場合がある。特に政府や国際機関が出しているグラフには、政治的意図が含まれていることが多い。
そのため、数字だけで考える癖をつけることが大切だ。
これからの時代を捉える基本ではないかと思われる。
※桐谷氏の営業哲理「営業は科学である」

次表から、あなたは何を読み解くことが出来るか

2020/10/30 2020/12/31 2021/2/27 2021/3/16
日経平均 22,977.13 27,444.17 28,966.01 29,921.09
TOPIX 1579.33 1804.68 1864.49 1981.50
ドル円 TTS 105.60 104.56 107.25 110.25
JGP(10年) 0.035 0.020 0.160 0.095
NYダウ(US$) 26,501.60 30,606.48 30,932.37 32,825.95
米国債(10年) 0.87 0.91 1.41 1.60

米国の長期金利の動向と、金融緩和政策の行方

私はバブルがはじけた後、金融マンとして後始末をしてきた世代である。証券会社、ノンバンクを担当、1995年以降は金融危機の第一線に立ち、陣頭指揮をとってきた。そのため、数多くの企業の修羅場を見てきたが、今回の状況はその経験値に当てはまらない、未曽有の異常事態である。
現在(2021年3月16日現在)、株価は3万円近くをつけている。これが下降していく段階の数字か、更に上昇していく数字なのかまったくわからず、毎日世界から発信される様々な情報や数字を捉えて判断する必要がある。
全てがグローバル、政治経済と連動しているため、この不安定な状態における日々の情報収集は一時も気を抜けない。
例えば、先月2月の終わりに1000円以上株価は下がった。これは株式史上10番目という大きな下げ幅である。
原因は、金利が上昇したことにより、リスクある株式投資より、安全な国債で配当収益を得た方が良いという判断が動いたので、株式から債券への運用シフトが起こったからだ。金利はヨーロッパでも上昇しており、全体としては上昇傾向にある。
金利が上昇すると株価は下がるというのは経済学の基本である。そのため、日本でも、
日銀が3月に金利の上下幅を大きくする政策変更があるのではないかと憶測され、株価が下がったが、黒田総裁が否定したことで戻るなど、ちょっとしたことで動く非常に不安定な状況にある事を留意して欲しい。(米連邦準備理事会(FRB)は3月17日、ゼロ金利政策を少なくとも今後3年続ける方針を示し、市場の緩和縮小観測をひとまず退けた。)現在の状況はこのように誰もが予測できない極めて不安定な状況である。

日経平均は、ソフトバンクなどの株価があがると跳ね上がるが、基本NYダウと連動している。10月末は大統領選挙の前で、トランプかバイデンか分からない状況ではあり、NYダウもまだ2万3000円、TOPIX 1500ポイント位であった。11月以降の株価の上昇の原因は、先進国を中心にコロナワクチンへの期待が高まったことによる、景気回復への期待感であり、NYダウが約25%上昇、それに連動して日本株も上昇している。この数字は、日本の金融バブルの上昇率を比較しても、異常な上昇率であり慎重に注視する必要がある。

今後の予測

米国金利が1.6 アメリカの配当株式は、1.5%、米国の場合は、資産運用をするため、長期投信が基本になる。
また、アメリカは金利が上昇すれば、景気はよくなるという国民性の楽観論があり、それがあるためアメリカの景気は上昇すると言われている。
現在のNYダウも、金融緩和下でのコロナ禍からの景気回復を先取りする形で上昇している。

日本はどうか。ゴールデンリセッションという言葉がある。
これは、「低成長と高生活水準」という日本社会の特徴を、フィナンシャル・タイムス紙のエディター、ダニエル・ボグラー氏が1998年の記事で述べた言葉である。
バブル崩壊後、「不況だ」と言われている割には、人々の生活水準は高く、欧米諸国に比べれば失業率も犯罪発生率も低い。しかし、企業活動、生産活動の側からみると、不況であることはまぎれもない事実であり、GDPもここ10年増えておらず、企業収益は低迷を続け、企業倒産や、リストラによる失業者など、苦境に陥る人も増加している。

このゴールデン・リセッションのような状況が今後も延々と続くのだろうか。
それを推測するには、3つの点から検証することが大切だ。
まず、コロナは必ず終息するという事実だ。
問題は、いかに早く終息できるか。つまり、いち早く抜け出した国が為替や経済指標に大きな影響を与えるだろう。
日本はコロナワクチンに関しては、買い負けに近い状態になっている。幸いなことに、日本は欧米のよう感染者の数も多くないが、かといって、中国・台湾のように強制力をもってコントロールをしている訳でもない。何となくコロナと共生しているという、日本特有な曖昧な状況であるため、終焉が捉えづらい。
そのため、終焉宣言をするための準備として、政府が明確な終息とする判断数値を明確に示す必要がある。
ワクチンに関して、我が国は
かつてワクチンで小児麻痺などおきたことからワクチン恐怖症であるため、ワクチン接種率は高まることはないだろう。
そのため、ワクチン接種数で世界に安全性を発信することもできない。故に、何となく他の国に合わせて終わるという状態になるのではないか。
しかし投資は数字なため、何らかの明確な終息宣言を判断させるための数字提示は必要であり、そのの下地作りこそ、今すべき事かと思う。

2番目の検証点は、世界的に金あまり状況であるということだ。

アメリカで190憶ドル、日本でも12兆円という大型経済対策が世界で行われ、それが市場に向かっている。
マイナス金利にも関わらず貯蓄率が上昇しており、貯蓄率の低いアメリカでさえ上昇している。

つまり、潜在的需要が拡大している金余り状況で、世界中の多くの消費者が消費を我慢しているという状況だ。
旅行など良い例で、沖縄の不動産は絶対にあがるということで、誰も売らないし、業者ものんびり構えている。つまり、潜在需要が膨らんでいる。

ワクチンの普及が順次進んでいる事からも、景気正常化は目前であり、設備投資も行われるだろう。ここでの留意点は、確かに、コロナ禍により企業経費は7兆円が消滅するなど、陸運観光外食生活関連サービス これらの売り上げが大幅に落ちているが、代替的に売り上げが伸びている分野もあるということだ。昨年末でタンス預金が100兆円突破したともいうことから、日本では家計や企業にマネーは滞留している状態なのだ。

景気が悪い時には、景気が良い人は黙っている。

という言葉がある。

果たして景気が本当に悪いのか。

景気が良い人は沈黙し、消費を我慢しているため、コロナの収束と共に一気に景気は拡大すると言われているが、日本は高齢化社会と重なり、我慢を美徳とする文化背景の中、どう動くか現場を観察していくしかない。
実際の動向を掴むには、消費現場をみなければわからない事が多々ある。
そのためリモートにばかり偏らず、様々な人と会い、現場を肌で感じる必要があるだろう。

これから起こると予測されている設備投資・景気回復の流れは、アベノミクスの目標だった。
皮肉なことに、コロナの影響の未曾有の世界的な財政投資により、今実現しそうな流れなのだ。

給付金などの補助金による消費拡大を当てにして設備投資

消費が拡大し、設備投資が増加すると、金利が上昇
金利上昇により、株価下落
というのが、近未来構図だ。

楽しくお金を使う国になろう

ゴールデン・リセッション脱却の3つ目のポイントは、国民の考え方が変化するかどうかだ。

日本人はとにかくお金の使い方が上手くない。
楽しく使っている人が少ないように感じる。
例えば、外食産業は大変な状況下だが、一日6万の補助金が出ているため、夫婦だけでやっているような小さな店舗の場合、貯め込んでしまうと、補助金は、会計上「収益」扱いになるため、当然所得税・法人税の課税対象になる。そのため経費が発生しない限り、来年度課税されてしまうだろう。
この先どうなるか不安なので、とりあえず貯蓄に廻してしまう気持ちも分かるが、設備投資にでも活用しない限り、税金でもっていかれてしまう。

又、平均75歳 団塊世代の資産の行く末も問題だ。彼らが楽しくお金を使えるサービスを提供しな限り、この国の資産は動かないだろう。
しかし、コロナ禍の影響で彼らのマインドが大きく萎縮してしまっている。
家から出ない高齢者がこのままだと、お金を楽しく使う前に人生が終わってしまい、タンス預金がそのままに凍結してしまう恐れもある。

「いつの日かを楽しくする」ために貯めこんでしまうと、相続税などの課税対象になることは明らかだ。
生産性向上をいかにすべきか。いかに楽しい世の中をつくりだすのか。
今回の財政出動を好機と捉え、消費者マインドを活性化させることへの事業再生の大切さを感じる。

インフレの可能性

世界中の政府がコロナ禍で債務超過に陥っているため、どこかでインフレを引き起こす可能性がある。どこかのマーケットが荒れた時、世界同時インフレが起きるだろう。
また、2010年以降、中国は外貨準備調達の一環として、日本の国債を大量に購入していることも注視する必要がある。
インフレの可能性は、地政学をはじめとしたさまざまな情報が複雑に絡み合った中で発生するため、難しい未来予測であるが、出来る事の一つは、リスクヘッジの資産分散だ。
米中関係の行く末にはどうなるか分からない、中国が強くなると言われており、確かにアメリカは多くの問題を抱えているとはいえ、若者が増加しているし国土は広いし、エネルギーももっている。
ドルの基軸通貨も危ういとい言われているが、今後10年は変化しないと思われるため、ドルへの資産分散は選択肢の一つだ。

編集後記)科学解析、最後は白兵戦

株価の推移、経済がどうなるか明確な答えは誰も分からないと言われているが、私たちに今出来ることは何だろうか。
数字を読み説く解析力を基軸とし、情報を集積、最後は現場を見て肌で感じて判断するという、基本中の基本力の大切さを再認識させて戴きました。
その基本的な事が行われないので、ネット情報に右往左往し、オンライン上で判断、ますます何が何だか分からなくなっているように感じます。
分からないからこそ、定石に戻ることの大切さ。
基本に戻ること、その大切さを再認識できたご講義でした。

桐谷先生の経営哲学、「営業は科学であり、最後は白兵戦」
数字解析視点、論理的思考で考えることの大切さ、しかし最後は現場での白兵戦
白兵戦とは、飛び道具などは使わず、刀や剣、槍、ナイフなどの武器を用いた、近距離接戦です。
最後は現場に行き、相手の息遣いを感じ、空気を感じる。
追いつめ、追いつめられ、タイミングを見計らう、
その時の咄嗟の判断力こそが、自らが決した決定であり、全力で戦うからこそ悔いはなし。

半沢直樹のドラマでも出てきた剣道のシーンが頭をよぎりました。
何事にも最後は真剣勝負とは、正にこの事かと思います。

桐谷先生の趣味は、日本中の街道を歩かれることだそうです。
様々な街道を自分の脚で歩く、土地を肌で感じる、その土地を生きる人たちの生活を感じる。

街道とは、商業の要所です。
そこを歩きながら感じること。
この昔からの方法こそ、未来の経済予測に大切な視点が養われ、数多くの上場企業のコンサルタントとして人気がある理由のようにも感じました。
経営者の多くは、理論より経験や体験を通した話を求めているからです。

地方活性化に関する質問に対しても、地方の資産家が、地方に投資するような仕組みを作らない限り、いつまで立っても同じ事だというご意見でした。
地方の資産家ほど、東京・大阪など都市圏の物件を買ってしまう。彼らが地元に資産を投資するような仕組みづくりこそ、大切である。
鄧小平の提唱した先富論(先に豊かになれる者たちが、貧困層を援助することを一つの義務にすること)も、地方行政においてはアリではないかというご意見も、肌で感じた方だからこその独創的なお話でした。

確かに、現在のような突破口が見つからない高齢化社会、世界時流の流れが速い時代において、みんなが歩を合わせて豊かになることを待つよりも、税制優遇などの仕組みを作り、地方資産家の資産が地元貢献に投資できる作りこそ大切でしょう。

このような独創性を持った提案こそ、コンサルタントに必要不可欠な能力であり、
その能力を養うには、解析科学plus白兵戦!

今世界は、お金を使いたくてウズウズしている人がたくさんいる!
日本独自の面白い商品やサービスの展開、
みんながウキウキしながら、お金を使える機会を創出することこそ、
事業再生の一つのヒントと感じました。

貴重なご意見ありがとうございました。(事務局)

 

 

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